vol.7 なぜかサラ金業界へ
ボスの人間としての弱点はギャンブルだった。人生がギャンブルそのものだというのにそれでもギャンブルが好きだった。毎晩賭け麻雀。僕らへの給料も殆どは賭け麻雀で稼いでいたんじゃないかな。だから、給料日が近づくと二三日行方不明になる。
そして、給料日の朝、札束を持って現れるのだ。負けた時はしばらく行方不明になる。
借金もハンパじゃなかった。田辺エージェンシーをはじめバーニング、ボンド、ホリプロにサンミュージック。主立ったプロダクションの殆どに借金をこさえていた。しかし、どこの会社もなぜか上条さんには金を出すのだ。田辺のK村副社長も「しょうがねーな」と言いながらなにかとボスを助けていたように感ずる。
そして、ある日のこと。借金はついに闇金融にまで及んでいたことを知ることになる。
ボスから一言。
「ケンジ、明日からはここの会社に出社してくれ」
そう言って地図を渡された。当時社員は僕とデスクの女性の二人になっていた。ちなみにデスクの女性は当時交際していたカズエちゃん。
なんの事やらさっぱり判らず、翌日指定された場所にカズエちゃんと二人出社すると、そこは・・・サラ金会社だった。しかもいわゆる早い話が暴力金融である。早速社長と専務に呼ばれ、会ったが・・・二人ともパンチパーマのどこから見てもどんなにひいき目に見ても100メートル離れて見ても御立派なヤクザにしか見えなかった。
そして、そこに働く人達もみーんな筋者だった。デスクが並ぶ中に三角形のプレートが置いてある。「芸能部」そこが僕とカズエちゃんの新しい職場になった。つまり、借金のかたに会社とテリーのマネージメント権が売り飛ばされてしまったのだ。ボスは引き続きプロデューサーを務める事になったが、いわゆる雇われプロデューサーである。まだ30代の前半くらいの社長と専務にボスがぺこぺこと頭を下げているのを見るのが忍びなかった。
彼女のカズエちゃんをそんな所に引っ張り込んでしまった事が申し訳なくて「辞めたほうがいいよ」と促したが、当の本人は「おほー」と笑いながらこの状況を楽しんでいたようである。そういえばちょっと変なヤツだった。
この会社の主業務は勿論金貸し。しかも重複債務者を狙って顧客にしていた。金主は大手のパチンコメーカーだった。社長と専務、社員の殆どは韓国人で、僕らに聞かれたくない話は全て韓国語で交されていた。そして、もう一つのシノギ、じゃなくて業務が新宿歌舞伎町で経営するデート喫茶と裏ビデオの制作・・・。もう厭。
翌日から研修と称して僕はこれらの事業部を転々と回された。やらされた仕事を列挙すると、デート喫茶で客と揉めたときの仲裁業(しつこい客をぼこぼこにすること)縄張りを荒らす同業者とのお話し合い(出入り・・・まあこれは枯れ木も山の賑わいで後ろにそっと立っていただけ要は数合わせ)裏ビデオのスカウト(当時は主に上野駅)と、現場の照明係。・・・もうこの辺でこれを読んでくれている若い人達は相当退いていると思う。僕も初めて明かす真実。でもね、でもね、その内僕にも明るい未来がやって来るのでもう少し辛抱して読んで頂戴ね。
そして、極め付けは債務者への取り立て。この頃はまだサラ金に対する規制が緩かったのでなんでもありだった。夜中だろうが早朝だろうがお構いなしに債務者の家に押しかけた。出て来るまで一時間でも二時間でも扉を叩きまくる。そしておきまりの誹謗中傷なんでもありのビラ貼り。
忘れられない取り立て話が一つある。先輩社員とある家に出掛けたときの事。家には小学生の男の子と、妹なのだろうか女の子だけがいた。両親は子供たちを置いたまま行方をくらましていた。その家を三日間張った。家には食べるものは何も無かった。
冷蔵庫の中にはマヨネーズが一つのみ。そのマヨネーズが行くたびに減っているのだ。空腹に堪え兼ねた子供たちは交互にマヨネーズを吸っていたらしい。可哀想で見ていられなかった。先輩社員の目を盗んで僕は二人に菓子パンを買ってあげた。そして、それが先輩にばれた。僕はぼこぼこに殴られた。
「ばかやろー!!てめえのちんけな情けのせいで、こいつらの親共はまたしばらく姿見せなくなるんだよ!!ガキは可愛いんだよ。かならずどっかで様子うかがっているに決まってんだろ!!学校の給食が無けりゃ、とっくに姿現してんだよ!!」
僕がかけた情けは結局子供たちにとっても裏目にしか出なかったのだ。その時僕はこの世界も奥が深いなと思ったものだ。しかし、僕の黎明期はなんでこんなにしょっちゅうぼこぼこに殴られてんだろう。なんかあるとすぐにぼこぼこ。
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