vol.8 番外現代
ここまで一気にずらずらと書き連ね、気分までもが一気に過去に戻ってしまい、自分が今まで突っ走ってきた事が本当に正しかったのか、この道選んで良かったのだろうかと、ふと考え込んじゃいました。まあ今更悔やんでも仕方無いし、意味無いし、時間の無駄だし、取りあえず禁酒中ではあるけれども、へばっているのは肝臓だけじゃないし、今更健康に配慮したって明日何が起きるか判らないこの世の中で1リットル程の酒を我慢したからって多分なんの支障もないだろうしお医者の吉田先生に見張られているかったのか、この道選んで良かったのだろうかと、ふと考え込んじゃいました。まあ今更悔やんでも仕方無いし、意味無いし、わけじゃないし看護士の佐藤さんはそりゃ可愛いけれどもだからって何が出来るってもんじゃないし毎週2回2本づつ注射も打ってるし天気はぐずついてるしそう言えば何となくさみしいしそう言えば何となく虚しいしだから呑んじゃえ呑んじゃえじゃんじゃん呑んじゃえ、って呑んじゃったら止まらなくなって結局三日間も呑み続け何が禁酒なんだか誰が禁酒なんだか判らなくなってしまった。今日は呑まない。
明日も呑まない。明後日はわからん。
さて、ぼこぼこ人生の続きです。さすがにこの年齢になるとぼこぼこにされる事はなくなったと思うでしょ。ところがどっこい、ぼこぼこついでに40歳過ぎてからの悲劇「麻布警察署で朝を迎える」番外編のはじまり。
3年前のある夏の日、スタッフの水村と断酒中のウツリ(山移高寛氏、当時は社員だったが現在はフリーの作曲家サウンドプロデューサー)と六本木に呑みに出掛けた。水村というヤツ、筋肉を鍛えることが趣味のナルちゃん野郎で、二の腕もぶっとく胸筋をムキムキさせるのが特技というヤツ。普段酒呑まないとどちらかといえば石橋を叩いても渡らないという、良く言えば思慮深く、悪く言えば優柔不断なヤツ。しかし一旦呑み始めると、呑んだ分だけ脳みそが溶け出してしまうのか、いきなり限りなくお馬鹿に変身する。体格ゴリラ並、頭サル並の凶器に変貌するのだ。この日も三軒目を出た頃には完全に自分の世界に埋没してしまい、深夜の六本木の街を「ごふっごふっ」と鼻息荒く闊歩し始めた。そして惨劇は勃発した。何をどう勘違いしたのか目の前3メートル先にいる身なり業界風の若者が「自分に眼飛ばした」と言い張る。その人明らかに反対側見てんのに。全然目合ってないのに。止める間もなくゴリ男突進。いきなり「バキっ!!」顔面横殴り。どちらかといえば華奢な体格のその若者は「シューッ」と吹っ飛んで閉店後の店のシャッターに激突。慌てて僕は後ろから水村を羽交い締め「こらっ馬鹿タレが、やめろ!!」水村の両脇の下に手を突っ込んでも止まらず、ゴリ男は更に突進し2発目を放とうとしている。こりゃあかん、僕は続いて両足を水村の腰に巻き付け転ばそうとしたのだが、馬鹿ゴリ野郎は既に操縦不能ブルドーザーと化していた。僕を背中におぶったまんま手足をぶるんぶるん振り回し、倒れた若者に乗りかかろうとする。その時振り回したヤツの肘が僕のわき腹を直撃。「ぐふっ」力が抜けてその場にへたり込む。更に凶器の腕はやじ馬の一人にも当たったらしい。そして、当たった相手はチンピラヤクザ。事態はわずか10秒の間に最悪の状況に変化してきた。警察沙汰にしない限り別の収束を考えなければならない様相。現実が判らずなにやら喚き散らすゴリ男。この時叫んだ言葉がチンピラヤクザの導火線に火をつけたようだ。「てめえ、こら、今なんつった。○○組だあー?てめっどーゆー意味だこのやろ」いきなりこの夜の関係者となり凄むチンピラ。水村は某大手広域指定暴力組織の名前を出したらしい。「いや、関係ないから。全然関係ないから」釈明する僕。でも全然収まらないヤクザ君。六本木の派出所が近かったので、不幸にもゴリ男に殴られた若者をウツリと担ぎ、喚き散らすゴリ男とヤクザ君を引き連れて派出所に向かう。そして更にのっぴきならない事実が判明する。いわゆる血の気が「さあーーーー」と退く類い。歩道を歩いているのにダンプカーに撥ね飛ばされてしまったような不幸な若者は、なんと当社のお得意様会社の社員だったのだ。最大手芸能プロダクション系のCM映像制作会社の制作マンだった。派出所で仰天し恐縮しシオタレテ名刺を渡す。
「すんません、いつもお○○さんにはお世話になってます」ひたすら謝り続ける僕。
相手は当然の事ながら憮然としている。相当やばい。ヤクザ君の問題など吹き飛んでしまった。ゴリ男はいきなり暴れて酔いが回ったのか呂律もへろへろ。もうただの粗大ごみと化している。メンドくさいからそのままヤクザ君にあげちゃっても良かった
のだが、そういう訳にも行かない。今度はぞろぞろと麻布警察まで移動。水村は取り調べ室へ連れていかれる。ヤクザ君は刑事さんに囲まれても相変わらず強気満々。今度は僕に脅しをかけてくる。「あいつよー、いつも○○のジムに通ってんだろ。見たことあんだよ」語尾がやたらと粘り着くような頭悪そうな喋り方で凄む。刑事さんの一人が僕に囁く。「なんでまたこんな面倒なヤツに喧嘩売ったんだよ」「はあ・・・」
実際の所なんでこのヤクザ君が怒っているのかよく判らない。殴ったわけでもなくただちょっと肘が触った程度。単なる言いがかり。収拾がつかなくなりそうな所に更にもう一人ヤクザさんが登場。と思ったらマル暴係の刑事さんだった。刑事さんはヤクザ君に一言「おまえ、この人達に後でなんかやろうとしたらしょっぴくからな」その一言でヤクザくんはシュンとしてしまった。この問題はこれで終了。めでたしめでたし。というわけにもいかない。今度は手当てを受けているお得意様の制作マンの所に行き、土下座。酔いが醒めたら必ず水村にも謝罪させることを約束した。彼は相変わらず憮然としながらも(当たり前だ)ようやくなんとか許してくれた。一応は社長が土下座してる訳だしね。起ち上がろうとしたら脇腹に激痛が走って僕はその場にうずくまってしまった。一応事件が解決に向かったのを見届けた瞬間、身体が信号を発したのだろう。刑事さんが僕のシャツをめくって脇腹を触った。「ぐげっ」顔をしかめた僕を見て一言。
「ありゃ、こりゃ肋骨イっちゃってっかもしれないよ」
すぐさま救急車が呼ばれ僕はそのまま救急病院に直行。レントゲンの結果折れてはいなかったが2本の肋骨にヒビが入っていた。
治療を受けコルセットでガシガシに胸を押さえつけられ、朝方再び麻布警察に戻る。
水村の身元引受人として。ウツリは寝ないで待っててくれた。水村は「ぐわーぐわー」イビキかいて寝てやがった。けっ飛ばして水村を起こし、すっかりと明けた六本木の街を三人、西麻布方面に向けてよたよたと歩き出した。とんでもない一日の始まりだった。
ったくなんでこの歳でこんな目に会わにゃならんのかね。もうそういう類いの荒事からは卒業させて欲しいわ。
思い掛けないところでウツリを登場させてしまったが、いずれ過去編でもう一度きちんと紹介する。
そして、僕の肋骨はいまもしくしくと痛むのだ。でも酒を呑むと痛みは薄れる。
んな訳で今日も呑んじゃおうかな。
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