« VOL.14 ヤクザに拉致られる | トップページ | VOL.16 帰国 船橋タコ部屋暮らし »

VOL.15 ヤクザに監禁中

 カシラのカツマタさんは一言「客扱いしとけ」と言い残してくれたので、僕は椅子に縛られることも、ムチでしばかれる事も三角木馬に座らせられることも亀甲縛りもなく・・・あれっ?
 まあ、実に中途半端な軟禁状態で八時間あまりを過ごすことになった。
ヤスナカは精いっぱい虚勢を張るように僕を睨みつけていた。こいつの身長はおそらく185センチくらいあったと思う。僕よりも20センチも高い。そしてマル坊主、眉そりそり。はっきり言ってかなりヤバイ容貌。だけどね、この時すでにアンパンのやり過ぎで歯は黒く、抜け落ちているのも何本かあって、どう見ても間抜け面なんだな。
このままヤクザ稼業やってても出世する見込みはかなり薄い。いいところ鉄砲玉だ。
 なるべく刺激しないように少しずつ話しかけた。
「あの、咽喉が乾いたんだけど・・・なんか買ってきてもいいかな」
「だめっす。今麦茶持ってきます」
「あっそ」
茶碗に注がれた色の薄い麦茶。
「・・・・・・・・ごくり」
 まだ外では蝉が鳴いていた。既に9月半ば。隣の部屋では何人もの人が出入しているらしい。扉が開いたり閉じたりする音が聞える。ラジオから流れる競馬中継。競馬も競輪も僕はやらないので何処で開催されているのか分からない。エアコンの室外機が壊れそうな唸りを上げている。まだまだ暑い季節。LAも確かに暑かったのだが、空気が乾燥しているので室内はエアコン無しでも結構過ごしやすかった。数日前の出来事とは思えない。
 帰国して間もないからとんでもない時間に意識を失いそうになるくらい眠くなる。
時差ボケだ。まさにこの時の沈黙状態では、後ろから強引に引っ張られるような眠気に襲われていた。さすがに眠ってしまって気が付いたら海の底でした・・・ごぼごぼってのは厭なので必至に睡魔と戦っていた。
 テーブルの横のラックには週刊誌が何冊か突っ込まれていた。週刊アサヒ・・・と言っても週刊朝日ではない。この業界でアサヒと言えば間違いなくアサヒ芸能だ。それと週刊大衆。毎号ヤクザ関連がトップページを飾る実に正しくえげつない週刊誌だ。
それを手に取りぱらぱらとめくる。ヤスナカは黙って見過ごしている。
「うわっ・・・木之内みどり、ツグトシさんにやられちゃったんだ(竹中直人さん、古い話でごめんなさい)・・・おっ、有名女子大生おっぱいぺろり・・・だって。かぁーったまらんね」
「じょ、女子大生っすか」
思わずページを覗き込むヤスナカ。おそらくこいつは童貞だ。
キッカケを掴みすかさず問い掛ける。
「あのさ、この稼業に入って得した事とかある?」
「大変ッス。じぶんまだ見習いなんで」
「カツマタさんて怖そうだね」
「・・・・」
ヤスナカ再び口を閉ざす。
「ところで、俺、帰れるんかな・・・」
「じぶん、わからないっす。カツマタさんは怖い人っす。イワサキの兄貴に聞いたん
すけど、耳や鼻をオトス事くらい簡単にやっちゃうらしいっす」
「へ、へええ、耳とか、は、鼻とかオトシちゃうんだ。そりゃ、えぐいね」
「で、でも、じぶんらにはやさしいっす。・・・裏切れないっす」
 ヤスナカにはどんなに優しくても初対面の僕には関係ない。ああ、ボスよ、はよ電話くれ。この場から一刻も早く開放してほしいっす。
「あ、あの、腹減りませんか?」
ヤスナカが聞いてきた。「祝・贈」と書かれた鷲だか鷹だかの立派な彫刻の施された時計を見るとすでに1時半だった。確かに空腹感はあるのだが、食欲は湧かなかった。
そりゃそうだ。ボスがばっくれた時には下手したら、鼻とか耳とか落とされて、海の向こうに送りつけられるかもしれないのだから。ああ、鼻から息が吸えるって、なんて幸せ。
「うーん、腹は減ってるっちゃあ減ってるんだけど」
「出前、取ります。自分、天下一のスタミナラーメン大好きッス」
憎めないヤツ。食い物を前にして人は本性をさらけ出す。こいつはおそらく親には邪険にされたかもしれないが、可愛がってくれた肉親がいるのだろう。そういう笑顔だ。しかし、この稼業には向いてないと素人ながら思うよ。
「天下一ね。うーむ・・・じゃ、チャーハンでいいや、俺」
 天下一ラーメンは当時珍しくチェーン店だった。西麻布の交差点にもあった。ラーメンは、単なるラーメンでしかなく、駅の蕎麦屋で喰うのと殆ど同じだった。店の裏には業務用スープの一斗缶が幾つも転がっている。そんな店。今も変わらず。それも伝統かね。焼き肉ラーメンが友達の間では人気が高かったが、スープで食わせるというよりは、豚のバラ肉の脂で食わせる代物だった。表面には1ミリくらいの透明な脂が浮く。でもね、ラーメンなんてものは当時そんなものだった。外苑前のホープ軒のラーメンを初めて食べたとき、あまりの上手さに感動したものだった。今は・・・おそらく一日か二日胃がもたれるだろう。その当時、オールナイトニッポンのゲストにテリーが出演した時の事だ。直前まで神宮外苑のビクタースタジオでレコーディングしていたので、スタジオ入りの前にホープ軒でニンニクをたっぷり入れてラーメンを喰った。その時のパーソナリティはアルフィ。スタジオにテリーと入った瞬間、有楽町の銀河スタジオではみんながパニックに陥った。「うおおおおおおおおおおおおお、なんじゃこの臭いは!!!!!!!!!!!!!!」
・・・ザマミロ・・・・
 ヤスナカと二人で出前のラーメンとチャーハンを食った。スタミナラーメンは簡単に言うと餃子の中身を麺の上にぶちまけたもの。部屋中にニンニク臭が充満した。若いってニンニクだよね。なんだか分からないけれど。葷酒山門ニ入ラズ(クンシュサンモンニイルヲユルサズ)禅宗の教えね。ニンニクだのニラだの喰って精力付けて酒呑んで女体の妄想にふけってはあきまへん、という意味らしい。まっヤクザには無縁の教えだ。
閑話休題。

 

で、憂国も迫る・・・じゃねーよ、夕刻も迫る頃、漸くボスから電話が入った。現地時間真夜中の一時過ぎだ。確か夏時間だったから。この事務所に電話をしてくる前に、おそらく方々に電話をかけて借金を頼んだか、この事務所の上部団体に渡りを付けていたのだろう。その間に何が執り行われていたのかはいまだに知らない。知る気もない。ボスからの電話の後に、実にあっさりと僕は解放された。しかも3万円入りの「お車代」を貰って。どういう意味だ?と思ったが、詮索はしない。まっ警察への口止め料だったようだ。
 しかしね、こんなのは嵐の前兆よ。この後の数ヶ月間に起こった事はそれだけでサスペンスバイオレンス感動巨篇になるくらいにすさまじかった。   つづく。

|

« VOL.14 ヤクザに拉致られる | トップページ | VOL.16 帰国 船橋タコ部屋暮らし »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1092770/23486643

この記事へのトラックバック一覧です: VOL.15 ヤクザに監禁中:

« VOL.14 ヤクザに拉致られる | トップページ | VOL.16 帰国 船橋タコ部屋暮らし »